自閉症スペクトラム障害者の感覚過敏性についての研究

発達障害の主な疾患である自閉症スペクトラム障害(ASD)では、感覚過敏性が18~63%に見られるとされ、新たな診断基準(DSM-5)においては、感覚異常が診断基準に加えられ、一つの大きな特徴です。しかし、特にASDの子どもたちの日々の問題行動を引き起こすことの多い、聴覚過敏性の神経基盤は未だ解明されておらず、有効な治療法はありません。
私たちの研究室では、2009年よりASDの聴覚過敏性の神経基盤を明らかにするために、脳磁図(MEG)を用いて音刺激に対する反応の違いについて検討を行ってきました。まず、ASD児の聴覚過敏性を質問紙(sensory profile: SP)で評価し、聴覚過敏性の有る群(ASD-W群)と過敏性のない群(ASD-WO群)に分け、定型発達児(TD)と比較しました。純音刺激において、ASD-W群では一次聴覚野反応(M50,M100)の潜時が有意に遅延しており(図1)、それはSP値によって過敏性が強いと判断された子どもにおいてより遅延している結果(図2)となっていました。また、一次聴覚野の反応の強度(dipole moment)もASD-W群で有意に反応が増強し、刺激回数が増えるごとにM50の反応が増大していく現象が認められました(図3)。さらにASD-Wでは、皮質反応が終了するまでの時間が延長しており、視床のsensory gating の異常、あるいは皮質抑制系の低下が関与していると考えられました。

図1

図2

図3
現在取り組んでいるプロジェクト
- 発達障害者の感覚特異性の脳磁図計測と再現モデルによる診断・評価・支援システム構築
- 脳磁図計測によるローランドてんかん児の言語認知障害機構の解明
自閉症スペクトラム障害児の運動機能と脳MRIの研究

運動障害は、DSM-Ⅴの診断基準には含まれていませんが、多くのASD児/者に共通して認められることが近年の研究によって明らかにされています。また、対人関係やコミュニケーションの障害といったASDの中核症状と関連しているとも考えられています。しかしながら、その神経基盤については不明な点が多く、有効なリハビリテーションも見当たらないのが現状です。そのため、私たちの研究室では、ASDの運動障害の神経基盤を明らかにするため、脳灰白質の体積計測や、脳白質の微細構造を非侵襲的に調べることができる拡散テンソルイメージング(DTI)を用いて研究を行ってきました。
近年の脳画像研究からは、運動機能において重要な役割を担っている小脳の異常、あるいは小脳と他の脳部位とのconnectivityの弱さがあることが示唆されています。そこで、拡散テンソルイメージングトラクトグラフィーにより小脳と大脳および脳幹を結合する上小脳脚、中小脳脚、下小脳脚を描出し(図1)、その微細構造について検討し、また、その結果とASD児の運動機能との関連を調べました。その結果、定型発達児 (TD)群と比較すると、ASD児群では、白質線維束の微細構造の統合度を示すFractional anisotropy (FA)が上小脳脚において低下しており(図2)、また、運動機能検査の得点とASD群の右上小脳脚のFAとの間に有意な正の相関が認められました(図3)。これらの結果は、小脳と大脳・脳幹などの他の脳部位とのconnectivityに異常があり、そのためこれらの脳部位間での情報のやり取りが不十分となり、ASD児の運動機能に影響を与えていることを示唆しています。

図1 トラクトグラフィーにより描出された小脳脚
a: 上小脳脚 b: 中小脳脚 c: 下小脳脚

図2 上・中・下小脳脚におけるFA

図3 右上小脳脚のFAと運動機能との相関
現在取り組んでいるプロジェクト
- 安静時機能的磁気共鳴画像法 (resting-state functional magnetic resonance imaging: rs-fMRI)を使用したASD児の脳領域間の機能的結合度の解明
- ASD児における運動・感覚・実行機能・社会性障害に対する反復性経頭蓋磁気刺激法(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation:rTMS)の有用性に関する研究