研究成果

ニコチンアミドリボシドの社会性障害改善作用の検証

2020-07-22

オキシトシン(OT)は、社会性認識・記憶の調節作用、抗不安作用をもつペプチドホルモンである。OTは視床下部ニューロンで産生され、その分泌には細胞内情報伝達物質であるサイクリックADP-リボース(cADPR)のカルシウム動員作用が必要である。cADPRはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)を基質にしてCD38またはCD157分子のADPリボシルシクラーゼ活性によって産生される。このため、脳内NAD+レベルを上昇させればOTの中枢作用が増大することが予想される。この仮説を検証するため、NAD+の前駆物質であるニコチンアミドリボシド(NR)をマウスに投与し、脳内NAD+、OTのレベルおよび行動表現型の変化を調べた。うつ様行動、不安様行動及び社会性行動障害を示すCD157/BST1遺伝子欠損(CD157KO;成体、オス)にNRあるいはリン酸緩衝液(プラセボ対照)を12日間連続して毎日経口投与したところ、CD157KOマウスが示す社会性障害と不安・恐怖様の行動が改善した。社会性行動テストにおいて、CD157KOマウスの社会的選好性(social preference)の障害は、NR投与により改善した(下図)。明暗選択箱テストでは、CD157KOマウスは対照群と比較して暗い領域への侵入回数が少なく、初回侵入までの潜時が延長していたが、NR投与により正常化した。以上より、NR投与がNAD+濃度を上昇させ、OTの中枢作用低下を正常化し、社会性障害と不安・恐怖様行動を改善することが示唆された。NRの効果はOT投与時と同様であり、NRが自閉スペクトラム症の新しい症状改善薬となることが期待される。この研究成果は、Scientific Reports誌に掲載された。

Gerasimenko M, Cherepanov SM, Furuhara K, Lopatina O, Salmina AB, Shabalova AA, Tsuji C, Yokoyama S, Ishihara K, Brenner C, Higashida H. Nicotinamide riboside supplementation corrects deficits in oxytocin, sociability and anxiety of CD157 mutants in a mouse model of autism spectrum disorder. Sci Rep. 2020 Jun 22;10(1):10035. doi: 10.1038/s41598-019-57236-7.